歯科医院はコンビニより多いとはよく聞きますが、では実際には、コンビニが全国で55,887件に対し、歯科医院は68,041件です。

※コンビニ店舗数:一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会「JFAコンビニエンスストア統計調査月報(2022年6月)」
※歯科医院数:厚生労働省「医療施設動態調査(令和3年9月末概数)」

歯科医院の方が約12,000店舗多いですが、たしかに近所を散歩すると何件か歯科医院の看板を見るので、たしかに競争の激しさを感じます。

それだけに廃業に追い込まれる歯科医院も徐々に増えており、「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査」によれば年間1,700件もの歯科医院が廃業しています。

これは年間の開業数とほぼ同数で、結果的に歯科医院の数は近年横ばいになっています。

もちろん、廃業の理由は後継者不在や院長先生やスタッフの高齢化などが原因であることも相当数含まれますが、経営不振によるものもあります。

今回は、歯科医院が経営不振で廃業に追い込まれる理由について解説したいと思います。

「良い物件=開業は成功」ではない

歯科医院の開業の良い物件選びというと、だいたい次のようなことを思い浮かびます。

・近くに成功している歯科医院がない
・比較的人口が多い
・駅から徒歩数分
・ビルの1Fや2Fなど、比較的目立つところにある
・郊外であれば近くにランドマークがあること
・川や線路、高速道路などでさえぎられていない

しかし、これらをすべて満たすことは容易ではなく、圧倒的な好立地でライバルの少ないところを探すことはかなり難しいです。

また、たまたま良い物件に出会えたとしても、それで終わりではありません。

開業して間もないのに、近くにも別の歯科医院ができ、そこに患者が流れてしまうことも考えられます。

しかも、良い物件の条件は、どういった診療をしていくかによっても違ってきます。

子供を中心に診療をしていきたいなら、ファミリー層が多い地域、自費診療を増やしたいなら年収特性といった具合です。

これを間違えると、一見良い物件を選んでいるようでも、全然集患できない事態が発生します。

このような事情もあり、決して物件はとても良いのに、廃業に追い込まれる歯科医院も増えています。

重要なのは良い物件を選ぶことではなく、コンセプトに合った物件を選ぶことです。

さらに、コンセプトに合った物件に加え、他の近隣歯科医院との差別化も必要です。

独自性のある治療法、検査法を通して、他の歯科医院と競合しないか、ということがとても重要になってきます。

物件選びさえ間違わなければ大丈夫と勘違いして開業した歯科医院は、おそらく苦境に立たされることでしょう。

経営理念やビジョンがない

近隣歯科医院との差別化は、決して治療法や検査法だけの話ではありません。

実際に、他の歯科医院にはない、高い治療技術を持ちながら廃業に追い込まれた歯科医院は数多く存在します。

一方で、ほとんど集患対策をしていないのに、知る人ぞ知る自費診療だけの歯科医院として成功している歯科医院もあります。

この大きな違いは何かというと、地域の患者さんのニーズに合った治療かどうかという点と、経営理念やビジョンです。

経営理念もビジョンは、決して形だけのお飾りではありません。

院長先生だけではなく、スタッフ全員と共有できていることが大切です。

「患者さんに対してどういう歯科医院であり続けたいのか?」
「スタッフに対してどういう歯科医院でありたいのか?」
「地域社会に対してどういう歯科医院でありたいのか?」

目指すところは、院長もスタッフも患者も幸せになるwin-win-win経営です。

スタッフを雇う必要のない起業したばかりの個人事業主であれば話は別ですが、歯科医院は基本的にスタッフがいないと経営は成り立ちません。

上記のことが曖昧になってしまうと、スタッフは違う方向を向いてしまい、いずれすれ違いが起こり、離職が相次ぎます。

そんなギスギスした歯科医院に通いたいと思う患者さんは少ないでしょう。

もちろん、集患対策は必要ですが、それ以上に自分自身が、どういう歯科医院であり続けたいのか? 患者さんのニーズに合った治療なのか?

ということを開業準備中に固めておくようにしましょう。コンセプトが曖昧なままだと、資金計画も難しくなります。

マーケティングだけでは歯科医院は成功しない

将来的な保険制度の悲観的観測から、多くの歯科医院が自費診療の割合を増やす取り組みをしています。

それだけに、内科や外科に比べると、歯科医院業界は集患対策などのマーケティングの関心が強い業界です。

医療機関でマーケティングに力を入れている業界といえば、歯科の他には美容外科など、やはり自費診療の割合が高く、競争が激しい診療科目です。

これは、他の医療機関よりは、同じくコンビニより多い整体院・整骨院といった治療院業界と似ているかもしれません。

競争が激化している業界では、マーケティングはもはや必須の課題になっています。

しかし、なかには、小手先の集客テクニックも蔓延しています。

例えば、テンプレート化されたランディングページをもとに自身の歯科医院の情報に書き換えるだけとか、トークスクリプトの丸暗記など。

これでは歯科医院のホームページやチラシが、みんな同じようなメッセージに見えてしまいます。

差別化しようとしてマーケティングを強化しテンプレートに頼った結果、余計に差別化されないという悪循環に陥るのです。

少なくともテンプレートを使うにしても、自分の歯科医院の治療に合ったテンプレートでないと訴求ができずに逆効果です。

このような小手先の技術しか教えないコンサルタントには要注意で、慎重に選ぶようにしましょう。

以下の記事を合わせてご覧ください。

【関連記事】クリニック開業コンサルタント失敗事例「こんな人に頼むのはNGです」

スタッフとの人間関係がギスギスした歯科医院に未来はない

他の医療機関に比べて、歯科医院はマーケティングに力を入れている傾向があるということはお話しました。

もうひとつ、他の医療機関に比べて多いと感じるのは、ソフトスキルに関する研修の参加です。

治療技術のスキルアップなどのハードスキルだけではないのです。

心理学等をベースにして、コーチングやコニュニケーションスキル、マネジメントスキルといったことを学ぶセミナーに参加する歯科医院が多いのです。

なぜかとというと、多くの歯科医院のもうひとつの顕在的な悩みがスタッフとの人間関係だからです。

人間の悩みの85%は人間関係と言われるほど、多くの人は人間関係に悩みます。

人間関係のストレスは、多くの人に生きづらさを与え、業務の生産性は上がりません。また、当然のことながら離職率が増えます。

入ったばかりのスタッフにすぐに辞められてしまっては、人件費の損失が大きくなるばかり。

また、スタッフが次から次へと辞める歯科医院は、地域の評判も悪くなり、新規採用に悪影響が出ます。

優秀な人材が集まらず、経営が成り立たなくなり廃業に追い込まれた歯科医院も多いと思われます。

コンビニより多い歯科医院では、集患も大変ですが、人材の確保も大変なのです。

なお、歯科医院のスタッフとのトラブルとの対応策については、以下の記事で詳しく書いていますので、併せてご覧ください。

【関連記事】【歯科医院の人事労務】スタッフとのトラブル6つの対応策

開業資金に人件費……無駄遣いをしてしまう

歯科医院を開業するということは、歯科医であると同時に経営者になるということです。

ですから、お金の管理についてもしっかり考えないといけません。歯科医院の開業資金もかなり高額です。

例えば、よくある失敗例としては、高額の医療機器を揃えてしまった例です。

診療圏から考えて必要性のない医療機器まで、ニーズのない高機能かつ最先端のものを揃える必要はありません。

開業後の資金繰りや収支を計算せず、強引な設備投資に踏み込んだ結果、半年で廃業してしまったケースもあります。

あと、人材の確保についてですが、莫大な人件費を念頭に置く必要があります。

ただ単にベテランスタッフを揃えれば良いとは限りません。一人ひとりが能力を発揮できる環境になければ、人件費が経営を圧迫するだけです。

また、スタッフが多ければ多いほどマネジメントも複雑になり、精神的なストレスもかかります。

人材を募集する際は、必要とされるスキルをしっかりと検討し、必要数だけ採用して、徐々に増やしていくようにしましょう。

このように、開業時には、患者さんのニーズやコンセプトをしっかり検討し、資金計画を立てるようにしていきましょう。

(1)貯蓄計画
(2)借入返済
(3)税金対策
(4)固定費算出
(5)事業収入

多くの先生は、診療圏調査をもとに売上(事業収入)を予測し、必要経費を除いた残りが院長先生の生活費(貯蓄)になるという考えをします。

しかし、それではおそらく歯科医院や院長先生のお金はほとんど残らず、廃業に追い込まれるでしょう。

重要なことは、5~10年後のビジョンから、何をすべきかを考えることです。

例えば10年後には、自分の手元にはこれくらいの収入があり、歯科医院内の貯蓄はこれくらいにしたい。

経費はなるべく抑えたいが、どうしてもこれくらいかかる。

院内貯蓄が〇〇〇万円になったら、設備投資したい。

このようなことを見据えた上で、自分の歯科医院にはいくらの事業収入が必要だろうかを考えるのです。

自分が得たいビジョンをもとに、逆算思考で資金計画を立てるようにしていきましょう。

【まとめ】院長先生もスタッフも患者さんもwin-win-winの歯科医院に

今回は、歯科医院が廃業に追い込まれていく理由についてお伝えしました。

多くの患者さんを救う治療技術を軽んじることは歯科医院としては論外です。

しかし、過当競争が激しい歯科医院では、もはや治療技術だけで生き残ることは不可能になりました。

だからといって小手先のマーケティングでは通用しませんし、崇高な理念を掲げるだけでも不十分です。

スタッフとの人間関係やコミュニケーションも重要ですし、しっかりした資金計画も必要です。

つまり、治療技術、マーケティング、スタッフとの人間関係、税務、理念やビジョン、すべての歯車が噛み合った歯科医院だけが生き残ります。

廃業した歯科医院の大半は、このいずれかが狂い始めたのです。

院長先生もスタッフも患者さんも、お互い幸せになる歯科医院を目指しましょう。

以下の記事も参考にしてください。

【関連記事】【2022年最新】歯科の開業医・勤務医の年収は?開業事例や必要資金も解説

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プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

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