クリニックの残業食事代を福利厚生費として経費にする場合の3つの注意

公開日:2019年8月29日
更新日:2024年4月9日
クリニックの残食代を福利厚生に

病院はもちろん、医院・クリニックなどの医療現場で、夜遅くまで残業することは珍しくありません。

例えば緊急入院や患者さんの急変で突発的な対応を求められることもあり、まったく残業をしたことがない医師や看護師の方が珍しいでしょう。

夜遅くまで残業したり、休日勤務したりした場合、福利厚生として残業食を提供することが可能です。

つまり、スタッフのために医院・クリニック側が負担した残業の食事代については、給与扱いではなく福利厚生費として経費計上して良いのです。

ただし、福利厚生費として認められるには条件があり、すべての残業食が福利厚生として認められるわけではありません。

そこで今回は、比較的残業の多い医院・クリニックの残業の食事代に関して、福利厚生費として節税できる方法をお伝えいたします。

残業食を福利厚生費として計上するメリット

残業食を福利厚生に

スタッフのために夜遅い残業食を負担し、弁当をデリバリーしてもらうようにした医院がありました。

インターホンに「宅配サービス様へ」というボタンまで用意するほど、デリバリーを活用していたのです。

その医療現場は20代後半から30代の働き盛りのスタッフが多かったのと、さらには独身者が約半数を占めていた状況でした。

そして、スタッフの業務は医院・クリニック内での業務がほとんどなので、スタッフの残業食のニーズが高かったのです。

そのため残業食事代を福利厚生費として処理し、食事代を全額損金として計上することにしたのです。

福利厚生費として経費処理することは、医院・クリニック側にとっても節税上メリットがありますが、スタッフにもメリットがあります。

スタッフにとっては給与扱いではなくなるので、福利厚生とすることで所得税の対象外とすることができます。

なお、福利厚生費として認められるのは残業食だけでなく、ランチなど通常勤務中の食事も福利厚生費(後述)とされますが、条件が異なります。

残業食を福利厚生費として計上する際の5つの注意点

残業食を福利厚生にする際のポイント

それでは、ここでは残業食が福利厚生費として計上する際の注意点についてお伝えしていきます。

現金支給しないこと(夜食用の300円以内の現金支給は除く)

食事を直接提供するのではなく、現金を支給した場合はどうなるのでしょうか?

この場合は福利厚生費として経費扱いにすることができず、医者や看護師などスタッフの給与として課税されることになります。

そのため、基本的には食事代を現金支給しない方が良いでしょう。

しかし、そうはいっても、夜食などを直接できない場合があります。

その際は、1回あたり300円(税抜)までであれば現金支給が認められます。

この規則については、国税庁のホームページにも記載されていますのでご覧ください。

また、現金で食事代の補助をする場合には、深夜勤務者に夜食の支給ができないために1食当たり300円(税抜き)以下の金額を支給する場合を除き、補助をする全額が給与として課税されます。 なお、残業又は宿日直を行うときに支給する食事は、無料で支給しても給与として課税しなくてもよいことになっています。

※国税庁ホームページより抜粋

特定の役員・スタッフだけでは認められない

残業食が個人事業主本人や役員だけ、または特定のスタッフだけの場合は認められないことが多いので注意が必要です。

これはつまり、残業食の対象が全スタッフでないと、食事代を福利厚生費として計上することができないということです。

特定の役員・スタッフのみを残業食事代の対象としていた場合には、交際費や従業員給与として扱いを受ける点は押さえておきましょう。

ただし、スタッフと一緒に残業中にお弁当を食べる、残業後に食事をするといった場合であれば認められることもあります。

残業食事代の負担金は常識の範疇から外れないこと

コンビニやスーパー、ファミレスなど一般常識的に残業食と考えられるお店で購入したとしても、飲食物・価格によっては認められない可能性があります。

たとえば、何千円もする高級弁当やアルコールが入った酒類などは、残業食として福利厚生費として計上することは不可能です。

また、高級レストランや高級料亭など残業時の食事とは想定しづらい場合も、福利厚生費でなく、交際費や給与となる可能性が高くなります。

つまり、

著しく高額でないこと

アルコール類などが含まれないこと

といったように、一般的な意味での食事であることが求められます。

勤務時間内の食事は残業食とはならない

あくまでも残業中の食事であるため、食事代を福利厚生費として計上するには勤務時間外の食事であることが絶対条件となります。

一見すると当たり前のように思いますが、医院・クリニックでは、夜勤や変則勤務がある場合も珍しくありません。

その場合は残業食ではなく、勤務時間中の食事として扱われるので注意しましょう。詳しくは後述します。

医院・クリニックが全額負担すること

後述するように、勤務時間中の食事については、医院側は半分以上負担すれば良いことに対して、残業食は全額負担となります。

スタッフが残業食事代を立て替えたようなこきは、領収書をもって実費精算することになります。

夜勤の食事はどのように取り扱うべきか?

クリニックの夜勤の食事代は?

また、医院・クリニックによっては、医師と看護師が交代勤務制となり、夜勤をしているところもあるでしょう。

このような夜勤中の食事については、どのように扱うべきでしょうか?

夜勤中の食事は残業食ではなく勤務時間中の食事

代直などの休日勤務や引き継ぎなどで時間外労働が発生した場合を除けば、交代勤務での夜勤は、残業ではなく勤務時間に相当します。

そのため、通常勤務時間として扱われる夜勤中の食事については、上記のような残業食とは違う取り扱いになります。

具体的には日勤中のランチなど、勤務時間中の食事の福利厚生の考え方と同じになります。

国税庁のHPでは、通常の食事が給与として課税されず、福利厚生費となるには、次の条件を満たす必要があるとされています。

(1) 役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。
(2) 次の金額が1か月当たり3,500円(消費税及び地方消費税の額を除きます。)以下であること。
(食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)

※国税庁ホームページより抜粋

つまり、1ヶ月分の食事代が7,000円で、半分を医院側で負担していれば福利厚生費になるということです。

月の食事代7,000円ということは、月20日勤務の場合は1日350円ということになります。

ただし、(1)(2)いずれも条件が外れていると福利厚生費として認められず、全額給与扱いになるので注意が必要です。

つまり、月の食事代が7,000円なのに、医院側の負担が2,000円であれば、医院側の負担は半分以下なので、福利厚生費として認められません。

また、月の食事代が同じく9,000円で、医院側の負担が4,500円であれば、(2)の計算で3,500円以上となるので、福利厚生費として認められません。

これについては、夜勤に限らず、変則勤務(16:00~22:00など)の場合についても該当します。

夜勤の場合も現金支給は1回300円まで認められる

残業食と同様、「通常勤務時間」としての夜勤も、深夜に直接弁当などの食事を提供できないことが考えられます。

その場合は、上記の残業食の考えと一緒で、1回300円(税抜)までの現金支給が認められます。

食事の福利厚生などは規程作成など明確に示しておく

クリニックの福利厚生のバランス

残業食を福利厚生費として計上するためには、医院内で福利厚生規程を作成し、上記のような注意点を明確に示したほうが良いでしょう。

なぜなら規程を設けることによって、税務署による税務調査で不利益を受けにくくなるのと、従業員が給与や交際費として計上するのを回避できるためです。

先ほどの注意点も一見常識的な話に聞こえますが、判断が微妙なケースもあり、医院としてもスタッフとしても節税できない結果となってしまいます。

そのため、勤務時間中の食事や残業食だけでなく、規程類を作成しておくのが良いでしょう。

【まとめ】残業食を福利厚生費として計上できる条件を押さえる

以上、残業食を福利厚生費として経費計上する際の注意点や、夜勤や変則勤務では通常の勤務時間中の扱いとなる旨をお伝えしました。

福利厚生費は、医院側は他の経費と違い全額損金として計上できることや、スタッフにも所得税がかからないので、両者にとってメリットがあります。

ただ、福利厚生費として経費計上するには、その条件を押さえておくことが必要です。

なお、福利厚生費といえば、社員旅行や、忘年会などの社内行事も福利厚生費として計上することが可能です。

社員旅行の福利厚生費については、以下の記事に詳しく書いていますので、併せてご覧ください。

【関連記事】クリニックの社員旅行の旅費を福利厚生費にして節税とスタッフ満足を実現!

亀井 隆弘

広島大学法学部卒業。大手旅行代理店で16年勤務した後、社労士事務所に勤務しながら2013年紛争解決手続代理業務が可能な特定社会保険労務士となる。
笠浪代表と出会い、医療業界の今後の将来性を感じて入社。2017年より参画。関連会社である社会保険労務士法人テラス東京所長を務める。
以後、医科歯科クリニックに特化してスタッフ採用、就業規則の作成、労使間の問題対応、雇用関係の助成金申請などに従事。直接クリニックに訪問し、多くの院長が悩む労務問題の解決に努め、スタッフの満足度の向上を図っている。
「スタッフとのトラブル解決にはなくてはならない存在」として、クライアントから絶大な信頼を得る。
今後は働き方改革も踏まえ、クリニックが理想の医療を実現するために、より働きやすい職場となる仕組みを作っていくことを使命としている。

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