はじめに

もし、先生の院内のスタッフに懲戒解雇すべき事案が発生した場合、どのような対応を取ればいいのでしょうか?

ご存知のように解雇の中でも、懲戒解雇は労働者にとって極めて重い処分です。

懲戒解雇処分を受けたスタッフは、今後の転職なども相当不利になることが実情で、本人のその後の一生を左右するものです。

その意味でも、懲戒解雇には基本的な知識と正しい手続きについて理解が必要です。

懲戒解雇については、後日解雇されたスタッフが不当解雇として裁判を起こすケースも増えています。

裁判の結果、不当解雇と判断され、多額の支払いを命じられるケースもあり得るため、十分に注意してください。

今回は「スタッフの懲戒解雇」について、詳しく解説します。

懲戒解雇までの基本的な流れ

まず、懲戒解雇の手続きについて、基本的な流れを確認しておきましょう。

もし、先生の院内のスタッフが懲戒解雇に値する行為を犯した場合は、以下の手順をしたがって処分を決めていくのが一般的です。

  1. 問題発生
  2. 事実関係の調査
  3. 懲戒解雇事由に値するかどうか、就業規則の確認
  4. 懲罰委員会の諮問、ならびに本人への弁明機会の付与
  5. 処分の決定
  6. 懲戒解雇通知書を作成
  7. 本人への通知
  8. 失業保険の離職票などの手続き
  9. 懲戒解雇の実施

以上が、懲戒処分までの流れとなります。

『懲戒解雇』の基本的ルール

次に「懲戒解雇」処分を実施するにあたり、基本的なルールを確認します。

懲戒解雇とは、院内の秩序を著しく乱した労働者に対するペナルティとして行う解雇のことで、ペナルティの中で最も重い処分です。

解雇には、

  • 「普通解雇」(懲戒解雇・整理解雇・諭旨解雇以外の解雇の総称)
  • 「整理解雇」(人員整理を目的として労働契約を解除するもの)
  • 「諭旨解雇」(懲戒解雇を若干軽減したもの)

があります。

退職願の提出を勧告し、即時退職を求める「諭旨解雇」に応じない場合に懲戒解雇する方法もあります。

それでは、懲戒解雇の処分を決定した際は、どのような点に注意して手続きをすればよいのでしょうか?

労働基準法(以下、労基法)では、解雇の種類を問わず、解雇に関する規定(解雇予告義務20条件の規定)を以下のように定めています。

法20条によると

解雇しようとする場合、解雇する旨を使用者に少なくとも30日前に予告しなければならない

としています。

ただ、懲戒解雇の場合、解雇予告なしで即時解雇したいケースもあるかと思います。

実は、懲戒解雇の即時解雇自体は可能です。

その場合は、平均賃金(解雇通告した日以前に支払われた賃金の総額÷3ヵ月間の総日数)の30日以上にあたる解雇予告手当を支払うことで、解雇予告なしの即時解雇することができます。

  • 解雇は基本30日前に予告をする
  • ただし、平均賃金を支払えば即時解雇も可能

予告も手当も必要なく、即時解雇できるケースも

また、

  • 天災により事業の存続が困難となった場合
  • 「労働者の責に帰するべき事由がある場合

には、予告も手当も必要なく、即時解雇が可能です。

この場合、行政官庁(労基署長)の認定を必ず受ける必要があります。

つまり、認定を受ければ

  1. 予告期間30日を待たなくても
  2. 手当を支払うことなく

即時解雇が可能ということになります。

それでは、行政官庁(労基署長)の認定を申請する場合、認定されるまでは即時解雇はできないでしょうか?

通達(昭63・3・14基発150号)では、「認定処分が出るまでに解雇をしても、その後認定が出たときは、その処分は申請のときにさかのぼって効力を発生する」と言っています。

つまり、解雇後に認定を受ければ、申請認定が判断される前に解雇はできます。

  • 一定条件下では、予告も、手当も必要なく、即時解雇も可能。
    ただし、行政官庁(労基署長)の認定が必須。

「労働者の責に帰するべき事由がある場合」とは?

以上の点をまとめると、ある一定の条件を満たせば、先生の院内のスタッフを「予告も手当も必要なく、即時解雇」が可能です。

さて、ここで1つ疑問となるのが、条件となる
「労働者の責に帰するべき事由がある場合」の適用範囲です。

具体的には、どの程度、どのような場合に懲戒解雇することが許されるのでしょうか?

結論から言うと、明確な基準はありません。

とはいえ、懲戒解雇が許されるポイントがありますのでみていきましょう。

就業規則上の規定の有無

懲戒解雇をする場合は、その判断の基準となる就業規則上の規定が必要です。また、懲戒解雇の事由が就業規則に明記されている必要があります。

つまり、

  1. どのような場合に
  2. どのような懲戒がされるのか

が、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。

弁明の機会を与える

懲戒解雇は労働者に対するペナルティであるため、原則としてクリニック側の一方的な判断で処分を行うことができません。

処分を行う前に対象者となるスタッフに弁明の機会を与える必要があります。

もし弁明の機会を与えることなく、懲戒解雇の手続きをすすめた場合は、適正な手続きを踏まないものとして、懲戒解雇は無効となる可能性もあります。

懲戒解雇の合理的理由及び社会的相当性

懲戒解雇の合理的理由とは

対象者の行為の院内秩序を著しく乱す行為があったかどうか(就業規則に規定された懲戒解雇事由に該当するかどうか)を意味します。

ただし、仮に合理的理由がある場合でも、懲戒解雇というクリニック側の判断が社会的に見てどうかも問題となります。

例えば、

  1. クリニックに実損が生じていない
  2. 懲戒解雇せずとも秩序の回復が可能

などの場合は、懲戒解雇の社会的相当性は否定されます。

以上の点をふまえ、「労働者の責に帰すべき事由」に当てはまるかどうかの判断基準は

「従業員の勤務年数、勤務状況、従業員の地位や職責を考慮し、基準に照らし、使用者、従業員の双方から直接事情等を聴いて認定するかどうかを判断する」

とされています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は、「スタッフの懲戒解雇」をする際の注意点ついてお伝えしました。

「懲戒解雇」は

  1. 解雇しようとする場合は、解雇する旨を使用者に少なくとも30日前に予告する必要がある
  2. 予告しない場合は、平均賃金の30日以上を支払う必要がある
  3. ただし、「天災により事業の存続が困難となった場合」「労働者の責に帰するべき事由がある場合」などの理由がある場合は、予告も手当も必要なく、即時解雇が可能である(※この場合、行政官庁(労基署長)の認定を受ける必要がある)

以上、3点に注意して適切な対応を取るようにしてください。

また発生した事案が、予告なし、手当なし、即時の懲戒解雇の要件である「労働者の責に帰すべき事由」に該当するかどうか判断がしにくい場合もあるかと思います。

もし懲戒解雇を検討したい場合は、一度ご相談していただければと思います。 

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