はじめに

医療行為は公益に繋がる一方で、医業にも「サービス業」としての一面もあります。

特に医院・クリニックを経営する開業医の先生にとってはこの傾向は強くなります。

他のクリニックの医療サービスと区別するために使われるクリニックの名称やロゴは商標になり得ます。

商標を適切に保護するためには、「商標登録」する必要があります。

将来的に医療法人化し、大きく発展していくほど商標権のトラブルに巻き込まれる可能性は大きくなるので注意が必要です。

ここでは、開業医の先生の一般的な商標登録について、そして商標権の侵害として認められる条件についてご紹介します。

商標登録の基礎知識

商標とは、事業者が自社の商品またはサービスを他社と区別するために使用するマーク(識別標識)のことをいいます。

商標登録した事業者は、特定の商品またはサービスについて登録商標を使用する権利を独占することができます。

一方、第三者は同様、もしくは類似した商標を使うことができなくなり、使用した場合商標権の侵害として訴えられる可能性があります。

ここでは、開業医の先生が知っておきたい商標権に関する基礎知識についてお伝えしていきます。

商標の保護対象~「動き」「ホログラム」「音」「位置」「色彩」も対象に~

商標というと、特定の商品や店舗名、サービス名やロゴを思い浮かべると思います。

たしかに従来は商標法の保護対象は、文字や図形などに限られていました。

しかし平成26年5月14日に商標法は改正され、平成27年4月1以降、それまで商標として登録できないものも商標登録できるようになりました。

具体的に新しく商標登録が可能になったものは「動き」「ホログラム」「音」「位置」「色彩」などといったものです。

動き商標 文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標
(例えば、テレビやコンピューター画面等に映し出される変化する文字や図形など)
ホログラム商標 文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標
(見る角度によって変化して見える文字や図形など)
色彩のみからなる商標 単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標(これまでの図形等と色彩が結合したものではない商標)
(例えば、商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩など)
音商標 音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標
(例えば、CMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音など)
位置商標 文字や図形等の標章を商品等に付す位置が特定される商標

※特許庁HPより抜粋

医院・クリニックの商標登録

ただ、医院・クリニックの商標登録では、従来の商標法のとおり、文字(クリニック名等)や図形(ロゴ等)での商標登録するのが一般的です。

ちなみに、商標を使用する商品・サービスを「指定商品・指定役務」と呼んでいます。役務というのは、サービスのことと捉えてもらって結構です。

指定商品・指定役務は、第1類から第45類までに分類されており、医院・クリニックに直接的に関係してくる役務は、第44類になります。

それでは、医院やクリニックでは、どのような商標を登録しているのか簡単に紹介します。

医院名やクリニック名やロゴの商標登録

代表的なのが、医院名やクリニック名やロゴの商標登録です。

実際に商標登録を検討する際は、J-PlatPatなどを使って具体的に調べることになりますが、名称を商標登録している医院は結構多いです。

特に◯◯医院よりは◯◯クリニックの商標登録が多く、毎年30~50件程度の出願があり、2017年は100件を超えています。

基本的には「佐藤クリニック」「東京医院」など、どこにでもある人の名前や地名のみの商標登録はできません。(商標法第3条第1項第4号)

とはいっても、多くのクリニックは、名称とマークを組み合わせたロゴとして商標登録されています。

そうすることで、上記の「佐藤クリニック」や「東京医院」でも商標登録が可能になるわけです。

しかし、ロゴではなくたまに地名や名字だけを使ったクリニック名を文字で商標登録したような例も少数ながらあります。(高須クリニック、湘南美容外科クリニックなど)

商標登録する際は、J-PlatPatなどで調べて同じネーミングの登録商標がないか注意しましょう。

治療方法も商標登録できる

医院・クリニックの商標登録というと、先の医院・クリニック名称が中心になりますが、治療方法も商標登録できます。

治療方法というと、商標というより特許を思い浮かべる方もいるかと思いますが、医療行為は特許の対象外です。

日本の法律では、公益的な価値が高い人体の治療方法は保護することができないからです。

その代わり、医業では治療法を商標登録することがあります。治療法についても第44類での登録になります。

知られた例としては、抗菌剤を使って口腔内の病巣を無菌化する「3Mix-MP法」という治療法が商標登録されています。

【その他】Webサイトの名称も商標登録対象に

医院・クリニックでは、かなり少数かと思いますが、例えばオリジナルの医療サービス名や、Webサイトの名称も商標登録可能です。

もし、ブログやオウンドメディアを運営するなど、HP以外の独自のWebサイトをお持ちであれば検討しても良いかもしれません。

商標登録の手続き

次に、商標登録の手続きの流れについてお伝えします。だいたい次の4つのステップに分けることができます。

すでに商標登録されていないか確認する

他のクリニックがすでに同一または類似の商標を登録している場合は、当然商標登録ができず、無断で使用すれば商標権侵害となる可能性があります。

冒頭でもお伝えしたように、クリニックの事業規模が大きくなるほど商標権のトラブルが起こりやすくなります。

商標は、J-PlatPatなどで簡単に調べることができるので、必ず事前に確認しましょう。

医療サービスの場合、先に書いたように指定商品・指定役務の区分は第44類になります。

登録したい区分に、同一または類似の商標が登録されてないかを注意しましょう。

登録したいマーク等が商標としての識別性があるか検討する

商標を構成する文字や図形などが他人の商品やサービスと区別できると言えない場合には、識別力がないものとして商標登録が認められません。(商標法第3条)

例としては、先に書いたようなただ単に名字や地名だけを付けたような、ありきたりな名称のクリニック名です。(一部例外はありますが)

商標登録の審査基準は特許庁で公表されていますので、商標調査の結果と審査基準に照らしながら登録可能な商標であるか検討する必要があります。

商標登録の必要書類を用意する

出願に必要な書類は特許庁のHPからダウンロードして、指定された書式に従って書類を作成します。

記載事項や内容などに不安がある場合には、特許庁に電話をしたり、弁理士などの専門家に相談するなど不備がないようにします。

なお、特許庁の方でも電話だけでなく、書類をFAXで郵送すれば添削もしてくれます。

出願する

特許庁や弁理士などの専門家に必要書類に不備がないことが確認できたら、いよいよ出願です。

出願には特許印紙が必要になるので、郵便局または特許庁で購入しておきましょう。

ただ、小さい郵便局では置いていない場合もあります。

【出願料金の計算式】3,400円+(8,600円×区分数)=出願料金

出願は、郵送もしくは特許庁に直接持っていくことも可能です。お近くにお住まいの場合は最終チェックしてもらえるので、直接持っていったほうが良いかもしれません。

※『音商標』については、その音をMP3形式で記録したCD-RまたはDVD-Rを添付する必要があります。

商標権の侵害の基準

それでは、ここでは商標権の侵害として認められる条件について、紹介していきたいと思います。

指定商品・指定役務が同一または類似している

商標権の侵害を訴えるには、商標だけでなく、指定商品・指定役務が同一もしくは類似している必要があります。

先に書いたように、指定商品・指定役務とは、商標登録した商品もしくはサービスのことです。

商標に加えて、指定商品・指定役務が以下の条件に該当すれば商標権の侵害となります。

①同一商標+同一商品・役務
②同一商品+類似商品・役務
③類似商標+同一商品・役務
④類似商標+類似商品・役務
※①を専用権、②~④を禁止権と言います。

つまり、商標が同一もしくは類似していても、商品やサービスがまったく異なるもの(非類似)であれば、商標権の侵害にはあたりません。

例:類似商標+非類似商品・役務⇒商標権の侵害とならない

「類似」と「非類似」の見分け方

そうなると、類似と非類似を判断する基準が気になりますが、商標の類似については原則として次の3項目で判断されます。

外見類似:見た目が似ているか否か

外見類似とは、見た目が似ているかどうか、ということです。見た目というと図形などを思い浮かべますが、文字でも当てはまります。

例えば、「0(数字のゼロ)」「O(大文字アルファベットのオー)」は読み方や意味は違いますが、外観的に共通しています。

そうすると、0とOは外観的に類似しているということになります。

呼称類似:呼び方が似ているか否か

外観、つまり使っている文字は使っていても商標の読み方が一緒であれば、対比する商標同士は類似するというものです。

例えば、「花のかおり」という和菓子を製造するA社があって、「はなのかおり」という和菓子を製造するB社があるとします。※A社が商標権をもっているとします。

どちらも同じ呼称で、しかも似たような意味(観念)にも捉えられるので、A社はB社を訴えることができます。

観念類似:商標のイメージが似ているか否か

外観も呼称も違っても、観念が共通していれば類似と判断するものです。

例えば「花」と「flower」は、読み方も見た目も違いますが、意味合いとして共通しています。

先に書いた「花のかおり」と「はなのかおり」は、「花」も「はな」も同じ意味合いなので、観念類似と言うこともできます。

商標権侵害のクリニックの裁判例

最後に、歯科・医科クリニックで商標権侵害を巡って裁判になった例を紹介します。上記の呼称類似に該当する例です。

「スターデンタル」という商標を登録している「九段下スター歯科医院」という歯科があります。

一方、これとは別に「赤坂スターデンタルクリニック」という歯科医院がありました。

このとき、九段下スター歯科医院が赤坂スターデンタルクリニックを商標権侵害で訴え、勝訴したのです。

「赤坂スターデンタルクリニック」を分解すると、「赤坂(地名)+スターデンタル+クリニック(一般名称)」となります。

「赤坂」「クリニック」はそれぞれ地名、一般名称ということで識別力がないということで、類似性の判断では重要視されませんでした。

さらに、「赤坂スターデンタルクリニック」という呼称が少し長いため、「スターデンタル」と略される可能性もあると判断。

その結果「スターデンタル」と「赤坂スターデンタルクリニック」の呼称が類似しているということで、原告勝訴となりました。

まとめ

ここでは、医院・クリニックの商標登録と商標権侵害についてお伝えしました。案外クリニック名について商標登録する医院・クリニックも多いのです。

商標はクリニックを印象づけるのに役立つものですので、医療サービスのブランド化のために有効です。

また万が一、商標権を侵害された場合は、商品の差止請求や破棄請求、損害賠償請求などを行うことができます。

逆に言えば、商標について意識せずにクリニック名をつけてしまうと、商標権侵害で訴えられることもあるのです。

商標権侵害となれば、クリニック名の変更を余儀なくされたり、信用力の低下に繋がりかねないので、注意していきましょう。

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