はじめに

職場で働く従業員にとって、賞与は非常に楽しみなものでもあり、大切なものです。

支給される賞与を期待して、高額な買い物や、旅行などの計画を立てたりする人も多いでしょう。

一方、こうした従業員を抱えるクリニックの経営者にとって、賞与の支給は人件費の大きな負担になるものです。

日頃頑張ってくれている従業員に報いたいという気持ちがある反面、経営者としてはできる限りコストを抑えたいというのがホンネではないでしょうか。

このように、クリニックの経営者にとっても、職場で働く従業員にとっても賞与は非常に重要なものです。

それだけに賞与にかかわるトラブルも少なくありません。

こうした余計なトラブルを未然に防ぐためにも、賞与に対する正しい考え方を理解し、それに対応するクリニック内の仕組み作りや、ルールを整備しておきたいものです。

そこで今回は、「賞与」について色々な角度、論点から解説していきたいと思います。

賞与とはそもそも何か?

そもそも賞与とは何でしょうか?

厚生労働省の通達では、賞与とは「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」と説明しています。

つまり賞与とは、賞与の増額、減額、あるいは賞与の支給の有無は、経営するクリニック側の裁量で決定されるものです。

この点は、毎月あらかじめ決められた支給額を支払う給料とは全く異なります。

賞与は必ず支払う必要はあるのか?

こうした賞与の支払いの取り決め(支払い義務)は、就業規則や雇用契約書で定め方によって決まります。

就業規則、雇用契約書ともに、賞与の支払いについて明確に定めない(言及しない)場合は、当然支払い義務は発生しません。

就業規則あるいは雇用契約書に、賞与の支払いについて定めた場合(言及する)場合は、その規定に沿って支払う義務が発生します。

とはいえ、上述のように賞与は、その金額の増減、支払いの有無については、経営者側の裁量によるものです。

就業規則や雇用契約書の中に、「業績等によっては支払わない場合がある」と「ただし書き」をつけておけば、万一賞与の支払いが難しい場合は問題ないでしょう。

賞与額を決定する仕組み

それでは、従業員に支払う賞与額はどのように決定すればいいでしょうか。

就業規則などに賞与の計算式など特に決めていなければ、経営者の一任で決定することも法的には問題ありません。

特に10人以下の中小企業では、経営者が従業員の一人ひとりの働きぶりも把握できることもあり、経営者の一任(主観的判断)で賞与額が決定するケースもあるかと思います。

しかし、組織の規模がある程度大きくなると、一般的には客観的な計算式に基づき賞与額を決定するケースがほとんどでしょう。

賞与額を決定するもっとも標準的な計算式は、「基本給×月数×評価係数」です。

基本給の中には、各種手当を含めても、含めなくてもどちらでも構いません。給与のどの範囲まで賞与額を決定する計算式に含めるかは、就業規則等で定めていけばよいでしょう。

月数は、
・会社側の判断(裁量)
あるいは
・組織内にある労働組合との話し合いの結果
によって決定します。

ただし、いずれの場合も、経営するクリニックの業績を反映したものになります。

3番目の評価係数は、いわゆる従業員の「査定」を反映した数字となります。

査定は原則として、経営者(クリニック側)の裁量が認められています。

一般的には査定は、職場で働く従業員の勤務態度、勤務実績、能力、その他のクリニックへの貢献度などをトータルで判断してなされるものです。

ここで問題になるのが、ある特定の従業員に対して低い査定をした際に、その従業員から査定に対して異議を唱えられた場合です。

この場合、雇用する経営者(クリニック側)の立場から、低く査定した合理的な理由をきちんと説明し、一度決めた査定に一貫性を保つことが大切です。

一般的に、経営者と従業員が、査定に対する評価が一致することは稀です。

立場が違えば、評価が変わるというのはある意味仕方がありません。

ですので、経営者として職場で働く従業員に対する評価(査定)を、従業員からの異議によりコロコロ変えてしまうようでは人事評価として収拾がつかなくなります。

一度決めた査定は原則として翻さないようにしましょう。

その意味でも、特定の従業員に対して、他の従業員よりも低い査定する時には、その査定が「不当査定」とならないようにしましょう。

さらに、査定の理由を合理的に説明できるように準備することが非常に重要となります。

この査定の理由を合理的に説明できない場合は、従業員から損害賠償を求められ、敗訴するケースもあります。

賞与にまつまわるトラブル。こんな時どうする?

次に、賞与にまつわる職場で発生する様々な問題点について見てみましょう。

対応を間違えると、思わぬトラブルにつながるので注意が必要です。

01:有給休暇や育児休業などを取得したことで、賞与額を減少することはできる?

まず、有給休暇取得者と賞与査定の関係についてから解説します。

結論から言うと、有給休暇をたくさん消化したから(あるいは有給休暇を消化していないから)という理由で、賞与額に差をつけることはできません。

有給休暇は労働基準法で定められた権利です。

そのため、有給休暇を取得した従業員に対して、それを理由に賞与額を減らすなどの不利益を与えることは法的に許されません。

次に、産休・育休取得者と賞与査定の関係についてはどうでしょうか?

この論点については、法的に2つのルールを適用して対応するようしてください。

1)賞与の対象期間中に産休・育休取得期間があったとしても、出勤していた期間がある限り、賞与を不支給としてはならない。
2)産休・育休取得期間を考慮して、賞与を実際に出勤していなかった期間の割合に応じて、減額することは適法である。

以上のルールから、産休・育休休暇取得者に対して、実際に休業した期間については賞与の査定の対象としないことは問題ありません。

とはいえ、それだけの理由で全額支給しないなどの、実際に休業した期間を超える不利益を与えることは法的に違法となります。

02:例えば出勤率90パーセント以上の従業員にだけ賞与を支給することは可能?

ある組織の中には、出勤率が一定以上の従業員に対して賞与を支給する旨を就業規則に明記した場合もありますが、法的に問題はないのでしょうか?

例えば、「出勤率90パーセント以上の従業員にだけ賞与を支給する」などです。

このようなケースは、この就業規則に定められたルール自体は合法です。

ただし、前項でも延べたように、「産休・育休」を欠勤扱いとして出勤率を算定して、産休・育休取得者に賞与の支払いをしないことは違法となります。

過去に「産休・育休」を欠勤扱いとして出勤率を算定し、賞与不支給にした企業に対する裁判で、損害賠償を命じた判例もありますので注意してください。

03:賞与の支給日前に退職する従業員から、賞与の前払いをする必要があるか?

賞与の支給日前に退職する従業員から、賞与の前払いを請求された場合はどのように対処すればいいのでしょうか?

退職と賞与の支払いの必要有無については、賞与の「支給日在籍要件」という考え方があります。

「支給日在籍要件」とは、賞与の「評価期間は全て在籍し」「賞与の支給日」に在籍している従業員に限り賞与を支払うという会社のルールをいいます。

したがって、冒頭の問題は、「支給日在籍要件」をクリニックで運用する就業規則などに盛り込むことで、賞与を支給する日に既に退職済の元従業員に対しては、賞与を支払わないという対応は可能です。

逆に、「賞与支給日在籍要件」を就業規則内に盛り込むことがなく、あとになって追加的に「支給日在籍要件」を理由に元従業員に賞与を支払わない対応をすると、元従業員にとって「不利益変更」にあたりますので注意しましょう。

04:退職予定者にも賞与を支給する必要はあるのか?

それでは、退職予定者には賞与を支払う必要はあるのでしょうか?

例えば、退職する1ヵ月前に退職届を提出し、賞与の支給日には在籍はしているが、その後すぐに退職することがあらかじめ分かっている従業員がいる場合などです。

この場合、結論から言いますと賞与は支払う必要があります。

退職予定の社員は、支給日にはまだ会社に在籍していることになり、「賞与支給日在籍要件」を満たすからです。

ただし、賞与を減額して支払うことは可能です。

その場合は、あらかじめ就業規則や賞与規定などにその旨を明記し、かつ従業員に対して周知徹底することが必要不可欠です。

以上が、この問題に対応するための基本的な考えになります。

規定を定めていない場合には、従業員の同意を得ること無く一方的に減額することは許されない、という点は念頭に置いておきましょう。

まとめ

最後に、賞与について就業規則や賃金規定で定める時の注意点についてお伝えしておきます。

就業規則や賃金規定で、賞与額の計算を定める時も、業績の良し悪しにもかかわらず、一定額以上の賞与の支払いを約束するような規定はもうけるべきではありません。

賞与とは本来、人件費の調整弁の役割を持っています。

あくまで、規定には「業績あるいは当該従業員の勤務成績等により賞与を支給しないことがある」点を明記し、周知徹底するようにしましょう。

また、「賞与支給日在籍要件」は就業規則等に必ず盛り込むようにしましょう。

賞与の支給にまつまるトラブルの多くは、賞与支給の要件に端を発するケースが多く見られます。

多くの「賞与支給日在籍要件」で見られる「賞与は、賞与支給日に在籍する従業員にのみ支給する」という規定は、裁判所でも有効とされています。

賞与支払いをめぐる、従業員とのトラブルを未然に防ぐためにも、以上2点について特に注意して就業規則や賃金規定を定めておくことをお勧めします。

詳細について不明な点がある場合は、社会保険労務士等の専門家に確認し、決定するようしてください。

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