物件選びで最初に検討すべき3つのポイント


物件選びの際は、集患に大きなかかわりのある次の3つのポイントに注意を払う必要があります。

1)都市部か郊外か
2)駅前か住宅街か
3)昼間人口と夜間人口の考慮

それぞれのメリットとデメリットをまとめました。

1)都市部か郊外か

都市型郊外型
メリット・人口が多く、集患が見込める
・生活が便利(利便性、子どもの教育や研修等の勉強に有利)
・郊外に比べると先生やスタッフの採用が容易
・競合が比較的少ない
・人口は少ないものの診療圏が広く集患が見込める
・都市型に比べて土地や家賃、人件費が安い傾向がある(土地建物を自己所有にしやすい)
デメリット・競争が激しいことが多い
・競合が多いため、診療圏が比較的狭い
・郊外型に比べて土地や家賃、人件費が高い傾向がある
・郊外は人口減が予想され、集患が難しくなっていく
・生活・通勤には不便
・先生やスタッフの採用も難しい

 

2)駅前か住宅街か

駅前住宅街
メリット・利便性が高い
・集患に有利
・テナント物件が見つけやすい
・通勤しやすく、採用にも有利
・調剤薬局との連携もしやすい
・比較的、競合が少ない
・運営コストが安い(利益率が高くなる)
・認知されると、かかりつけとして集患ができる
デメリット・競合が多い(差別化し、埋もれてしまわないよう目立つ必要がある)
・運営コストが高い(利益率が低くなる)
・通勤や採用には不利
・認知されるのに時間がかかる
・テナント物件を見つけづらい
・近くに調剤薬局がないケースがある

 

3)昼間人口と夜間人口の考慮

それぞれの特徴と、集患しやすい診療科目をまとめます。

昼間人口が多い(オフィス街等)夜間人口が多い(住宅街等)
特徴・昼間はサラリーマン、OLがいるが、夜間や休日は住んでいる人がいないためほとんど集患が見込めない。そうした場所のテナントで見込めるのは平日昼間人口のみ
・ライフスタイルとして平日昼間の間だけ開業し、夜や土日はしっかり休みたいなら、オフィス街の開業を視野に入れて良い
・朝7時開院のような早朝開院をするのもオフィス街ではお勧め
・住宅街や郊外が該当
・夜間の急患等に対応しなければならないことも考えられる)・一旦集患し、患者との関係が築けると、かかりつけのような位置づけになりやすい
集患しやすい診療科目・風邪や頭痛程度の軽い症状(会社の前や、昼休み、帰りに診察)
・定期検診等
 ・手術を要する病気や不妊治療のような長期間の通院が必要なもの
・周辺に病院が少ない場合は、多くの診療科目を兼ねている医院も多い

診療圏調査の信ぴょう性は?


「診療圏調査」とは、ある場所で開業した場合に、1日あたりどれくらいの外来患者数が見込めるのかを科学的、統計的に把握するための調査です。
その地域内の疾患ごとの患者数を、対応する医療機関数で割って算出します。

クリニックの開業支援を行っている事業者は、通常この診療圏調査レポートの作成サービスを行っていますので、活用をおすすめします。
ただし、あくまでこの数値を基本とし、必ず候補地に足を運ぶなどして、下記を検討すると良いでしょう。

・競合の医院ごとの競争力(競合先が力を入れている診療科目かどうか)
・再診患者の定着率(医院によってばらつきが非常に大きい)
・都市計画やマンション建設予定等による人口変動
・夜間人口、昼間人口の差

競合が多かったとしても、患者が望んでいる治療(夜間診療や早朝診療、出張診療、自費治療等)ができるなどで、差別化ができるなら勝算は低くありません。
一方、競合が多い地域でとりあえず開業だけしても、競合の中に埋もれてしまい、医院経営で苦労することになるでしょう。

テナント、医療モール、承継、医院建設 それぞれ気を付けるべきこととは?


以前の記事、「失敗を避ける!医療開業 事業計画書作成の5つのステップ」
■開業時によくある3つの失敗パターン 1)開業場所の選択ミス開業場所の選択ミス、でお話しした下記のように、開業場所の選択にはくれぐれも気を付けてください。

・ライバルとなる医院が周りに多く、うまく差別化もできなかった
・診療科目に合った患者が近隣に少なく、集患に苦労する
(例えば極端な例では、子どもの数が少ない高齢化地域に小児科を開業する等)
・取得費用が安かったからと路地裏に開業してしまい、周りから発見されにくく、認知されるまでに時間がかかってしまった
・居抜き物件で医院の名前を変えなかったので、前医院長の悪い評判を引き継いでしまった
・不動産業者の「こんな優良物件が手に入るのは今だけですよ」という強引な勧めに乗ってしまった

その上で、医療物件を選択する際には次の4つの形態を検討することが多いと思います。
ここでは、それぞれの留意点をお話します。

1)テナント
2)医療モール
3)承継、居抜き物件
4)医院建設

1)テナント選択時の留意点

①医院としての物件調査
②テナントの店子(上下隣)のチェック
③テナントの広告規制の確認
④テナントの賃貸借契約の形態の確認

①医院としての物件調査

物件調査を行い、医院として使用できるかどうかをチェックしてください。
次のような項目があります。

・天井高は2.3m以上か
事務所として貸し出しているような物件で、天井が低い場合、医院として使用できない可能性があります。

・電気設備 必要な電力容量を確保できるか
必要に応じて電気容量を増やす際の追加費用を確認します。

・空調設備 エアコンは十分か、移設・増設することはできるか
移設・増設が必要ならその追加費用を確認します。

・換気設備 各部屋の給気や換気、最終排出先の確認

・給排水衛生設備の確認
医院には手洗い、流し台、トイレ等の衛生設備が必要です。衛生器具については医師や患者の導線を確認の上、設置しましょう。

・消防設備 自動火災報知設備や避難口誘導灯、スプリンクラーといった設備の設置

・ビル指定業者(B工事業者)の有無
ビル指定業者については、指定業者のため金額交渉が難しく変更もできないので想定より割高になる可能性が高くなります。事前に工事区分表を入手し、工事業者はどこか(指定業者がいるかどうか)を確認しましょう。

②テナントの店子(上下隣)のチェック

テナントを借りる場合、病院の落ち着いた雰囲気を壊すような店子が入っていないかどうかをチェックすることが必要です。

もし近隣に、学生や生徒でにぎわっている予備校や学習塾、習い事などの教室、飲食店などが入っている場合は要注意です。
またイメージや入りやすさの問題から、夜のお店や消費者金融などの入っている建物も、できれば避けたいところです。

③テナントの広告規制の確認

「○○医院」のような袖看板や広告を条例で禁止しているケース(横浜市)や、デザイナーズビルなどでオーナーが看板を禁止しているようなケースがあります。
特に表通りに面していない場合は、もし看板を設置できないと、医院があることが患者に認識されない可能性があり、集患が難しくなってしまうでしょう。

④テナントの賃貸借契約の形態の確認

賃貸借契約期間が10年以内に設定されているようなことがないかを確認してださい。
医院開業の際には、内装工事や医療機器の設置等に費用をかけ広告宣伝費もかけて認知度を上げることが必要です。
それが数年後に移転しなければならない、となると大きな損失を出してしまうことは避けられないでしょう。

特に将来、医療法人化を検討している場合は要注意です。医療法人化の要件に「長期間にわたり賃貸借契約を継続することの保証」という項目があることが多く、満たせない可能性が出てくるからです。

2)医療モール選択時の留意点

医療モールを選択する場合、物件として医院を前提にしているため医療物件としての要件を満たしている場合がほとんどです。
ただし、建物自体が古い場合などは新しい要件に対応していないケースも想定されるため、調査を行っておく方が無難でしょう。

また、医療モールを選択する場合の注意点として、既に入っている医院を把握しておいてください。
小児科と内科など、診療科目によっては患者の奪い合いが生じるケースがあり、近くに競合の医院があることになるからです。
他にも例えば、インフルエンザの予防接種はどの診療科目でも実施できるので、患者の奪い合いになり、関係が悪化する可能性もあるので注意が必要です。

3)承継、居抜き物件選択時の留意点

承継や居抜き物件を活用する場合、開業費用が抑えられるメリットがあります。

ただし、
・設備が古く、内装の新調や設備費用の入れ替えに思ったより費用が掛かってしまった。
また、前にご説明したように
・居抜き物件で医院の名前を変えなかったので、前医院長の悪い評判を引き継いでしまった。
ということもあるので注意が必要です。

4)医院建設選択時の留意点

・土地購入して医院を建設する
・集患がうまくいかない場合でも、かんたんに移転することが難しい。
・開業時に負担する借入金も、テナントや医療モールに比べて非常に大きくなる傾向がある。借入金で大部分を賄うケースが多いが、その分リスクを負うことになる。
・しっかり資金計画をシミュレーションする事。

その他、気を付けておくべきこと

その他に、下記のことにも注意しましょう。

1)地元の有力者の開業状況
2)近隣の大学病院出身者の開業状況
3)将来の増築や診療科目の変更の考慮
4)不動産付きのコンサルタントにご用心

1)地元の有力者の開業状況

開業候補地において、地元の有力者(医師会の重鎮や政治家や地元の有力者の子息など)がすでに同じ科目の医院を経営していないかに注意してください。
そうした場合、競合する診療科目で開業してしまうと、地元に対する彼らの影響力が大きく、難しい立場に追いやられる可能性もあるでしょう。

2)近隣の大学病院出身者の開業状況

開業候補地において、近隣の大学病院出身者が開業していないかにも注意しましょう。
また近隣の大学病院出身のドクターが開業していない場合でも、後日、もしそうしたドクターが開業すると考えてみてください。
そのドクターは出身病院から患者を紹介されたり、出身病院で外来を担当してパイプを維持していけることになりますので、追い抜かれる可能性もあります。

逆に自分が属している大学病院や関連病院の近隣に開業する場合、同じ診療科目のドクターがいなければ開業するのは有利になります。
ただし、先輩等がすでに開業していると「なぜ同じ地域に開業するのか」と取られてしまうことも考えられます。

3)将来の増築や診療科目の変更の考慮

今は無理でも、将来オペ室を増室したい、診療科目を増やしたい…。
そうした展望があるのであれば、経営が軌道に乗って余剰資金ができてから取り組もうという計画があるかもしれません。

その際、増築できるように
・必要な土地を押さえておく
・地主と交渉しておく
・テナントを借りる際に、院長室や医局等のスタッフスペースを転用する
などの想定が必要になってくるでしょう。

4)不動産付きのコンサルタントにご用心
不動産会社やそれに近いところにいるコンサルタントに、土地・建物探しを依頼した場合、その不動産会社の物件を強く勧められる可能性があります。
「是非ここにしてください!」と強く言われる可能性もありますが、複数の物件を比較したり、他の人の意見を聞いたりして冷静に判断をしましょう。
思わぬ高値で、物件をつかまされてしまうことになるかもしれません。

まとめ 物件選びのポイント

これまで、

・都市部か郊外か、駅前か住宅街か、昼間人口か夜間人口のどちらを重視するか
・診療圏調査における留意点
・テナント、医療モール、承継、医院建設のそれぞれの留意点
・その他、気を付けておくべきこと

についてお話ししてきました。

物件を一旦選んでしまうと、少なくとも数年、長ければ数十年は簡単に変更できません。
変更したとしても多額の費用が掛かってしまうでしょう。

そうしたことにならないように、ここで挙げたポイントを頭に入れ、納得のいく物件選びができるよう、ご検討ください。

ご相談・お問い合わせ

お問い合わせはこちらから

この記事の執筆・監修はこの人!
プロフィール
笠浪 真

税理士法人テラス 代表税理士
税理士・行政書士
MBA | 慶應義塾大学大学院 医療マネジメント専攻 修士号

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢42人(R2年4月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

                       

こちらの記事を読んだあなたへのオススメ