災害が起きたらどうなる? 知っておきたい税制上の救済措置

公開日:2019年11月27日
更新日:2024年4月11日

はじめに

近年、地震、水害等甚大な被害を及ぼす災害が頻繁に起こっています。
医院・クリニックを経営する開業医の先生にとっても、このような災害に見舞われてしまう可能性はあると思います。
また実際に被害にあわれた先生もいらっしゃると思います。

災害に関しては、税金の取り扱いにおいて様々な救済措置があります。

ここでは救済措置についての紹介と、建物などの固定資産が壊れた場合の処理について、具体例を交えてご紹介します。

災害時の税金救済措置

災害時の救済措置については以下のものがあります。

  1. 申告期限の延長
  2. 納税の軽減(納税の猶予、予定納税の減額等)
  3. 所得税の軽減(雑損控除、災害減免法等)
  4. 法人税の軽減(欠損金の繰戻し還付等)
  5. 消費税の特例(簡易課税の不適用等)
  6. 地方税の軽減(事業税の軽減等)

それではひとつずつ見ていきましょう。

1.申告期限の延長

①地域指定

広範囲に及ぶ災害の場合は国税庁長官が期日を告示します。
東日本大震災(3/11)の際は岩手県と宮城県の一部で最長で翌年の4/2まで延長されました。西日本豪雨(7月)でも11月下旬まで延長されました。

②個別指定

個人や法人が所轄税務署長に申請し、承認を受けることにより延長が可能です。
〈期限〉
・申告期限:理由がやんだ後相当の期間内に申告します。
・延長後の申告期限:理由がやんだ日から2ヶ月以内に申告します。

〈延長が認められるケース〉
・帳簿書類の滅失等
・交通手段や通信手段の遮断
・株主総会が開催できず、決算が確定しない などの理由があります。

〈利子税〉
通常の申告期限の延長では利子税がかかりますが、災害の場合はかかりません。

延長の申請は柔軟に対応してくれますので、被災状況が落ち着いてからで問題ありません。

2.納税の軽減

①納税の猶予

・被災後1年以内に期限が来るもの →納期限から1年間猶予があります。

・所得税、法人税、消費税の予定納税 →確定申告書の提出期限まで猶予があります。

〈申請〉 災害がやんだ日から2ヶ月以内に申請します。

②予定納税の軽減(災害減免法)

A. 7/1~12/31までの災害であること。
B. 住宅や家財の損害が時価の1/2以上であること。
C. 所得金額の見積もりが1,000万円以下であること。
災害があった日から2ヶ月以内に減免申請が可能です。
(通常は7月前半と11月前半しかできません)

③源泉所得税の徴収猶予又は還付

・②B.C.に該当する給与所得者については、源泉を天引きしない、または還付を受けることができます。
・確定申告で雑損控除や災害減免法により所得税が還付されるケースで、そこまで待たずにすぐに資金を使えるようにする制度です。

〈申請〉 被災後、最初に給料をもらう日の前日までに勤務先又は税務署に申請します。

3.所得税の軽減

⑴雑損控除

・災害、盗難、横領による損失を所得金額から控除できます。

①対象資産

・本人又は扶養親族の所有資産
・事業用の資産や在庫は対象外
・通常生活に必要でない資産は対象外(別荘、ゴルフ会員権、30万円超の貴金属等)

②控除額 次のいずれかの多い金額となります。

A. 差引損失額-総所得金額等の10%
B. 災害関連支出-5万円

・差引損失額=損害金額+災害に関連したやむを得ない支出-保険金額

・損害金額:時価による損害(簿価でもOK)

・災害に関連したやむを得ない支出;取り壊し、除去費用+原状回復費

③繰越

控除しきれない場合は翌年以後3年繰越可能です。

④手続き

・確定申告は必要です。
・災害関連支出の領収書を添付します。
・火災や盗難は証明書が必要です。

⑵災害減免法

⑴の雑損控除との比較で有利な方を選択できます。

・災害による損害を受けた場合に所得税が直接25~100%減免されます。

①対象

・本人又は扶養親族の所有する住宅や家財であること
・所得金額が1,000万円以下であること
・損害金額(保険金等による補填部分除く)が時価の1/2以上であること

②控除額

・所得金額500万円以下   : 全額免除
・500万円超750万円以下  : 1/2免除
・750万円超1,000万円以下 : 1/4免除

③手続き

・確定申告は必要です。
・添付書類は特にありません。

④雑損控除との違い

・災害減免法は税額の軽減 雑損控除は所得控除
・災害減免法は所得税のみ、雑損控除は所得控除を通じて住民税も軽減
・災害減免法は災害のみ、雑損控除は盗難、横領も対象
・災害減免法は所得制限あり、雑損控除はなし
・災害減免法はその年のみ、雑損控除は3年繰越可能

⑤どちらが有利?

税額が直接かつ100%免除される災害減免法の方が有利なケースが多いですが、条件によっては雑損控除の方が有利になります。損失額がだいたい分かったら、税理士や税務署に相談してみましょう。

4.法人税の軽減

地震、台風、火災などの被害により、保有する建物等に被害が生じた場合、その修繕費などは「災害損失」として特別損失にすることができます。

具体的な例としては

  • 壊れた固定資産(建物・ソフトウェア等)や紛失した商品等の金額
  • 被害を受けた資産の点検費用、撤去費用
  • 被害を受けた資産の修理代
  • 災害による店舗等の移転費用
  • 災害による営業休止期間中の固定費
  • 被災した役員・従業員等に対する見舞金、ホテルの宿泊代等の復旧支援費用
  • 被災した取引先に対する見舞金、復旧支援費用や債券の免除損

つまり被害を受けたものの金額だけでなく、修理代や点検費用、従業員や取引先の方への支援費用なども含めて広く特別損失にできるということです。

固定資産が滅失した時の仕訳・記帳

保有する固定資産が火災や地震、風水害などの災害にあって使用できなくなることを固定資産の滅失といいます。

固定資産が滅失した場合、滅失した固定資産の帳簿価額を減額し、これを『災害損失』などの勘定科目(特別損失)を使って損失処理します。

例えば、帳簿価額30,000円(取得原価35,000、減価償却累計額5,000円)の機械装置が火災により焼失し使用できなくなった場合の仕訳は以下の通りです。

借方金額貸方金額
減価償却累計額5,000機械装置35,000
災害損失30,000  

この場合、保険金の金額が確定するまでの間はいくら損したのか(または得するのか)わかりませんので、いったん『火災未決算』などの勘定科目を使って処理します。なお、固定資産には保険がかかっている場合があります。

後日、保険金が確定した段階で滅失した固定資産の帳簿価額と保険金との差額を『災害損失』または『保険差益』などの勘定科目(特別損失または特別利益)を使って処理します。

1.火災発生時の処理

帳簿価額40,000円(取得原価50,000円、減価償却累計額10,000円)の倉庫建物が火災により焼失した。なお当該倉庫には火災保険がかけられている。

この時点ではまだ損益が確定していません。したがって焼失した倉庫の帳簿価額を『火災未決算』として処理します。

借方金額貸方金額
減価償却累計額10,000建物50,000
火災未決済40,000  

2.火災保険金額確定時の処理

上記1の倉庫火災について、保険会社より35,000円の保険金が支払われる旨の連絡があった。

借方金額貸方金額
未収入金35,000火災未決済40,000
災害損失5,000  

焼失した倉庫の帳簿価額は40,000円であったのに対し、火災保険の金額は35,000円であり、帳簿上5,000円の損失が発生します。従ってこれを『災害損失』として処理します。

もし、火災保険の保険金額が41,000円であった場合、焼失した倉庫の帳簿価額より大きな金額の保険金を受け取ることになります。この場合は差額を『保険差益』として処理します。

借方金額貸方金額
未収入金41,000火災未決済40,000
  保険差益1,000

災害損失特別勘定と災害損失欠損金

①災害損失特別勘定の設定

・災害損失を修繕するための費用が確定していない場合でも、1年以内の支出額を見積もって特別勘定に繰り入れた場合は、経費にすることができます。

②災害損失欠損金の繰越

・通常の欠損金は損失の発生年度に青色申告書を提出することが条件ですが、災害の場合には青色申告書を提出できなかったとしても9年間繰り越すことができます。

③災害損失欠損金の繰戻し還付

・黒字→赤字となった場合に前年度に支払った法人税を取り返す手続きが「繰戻し還付」です。

・災害から1年以内に終了する事業年度に生じた災害損失欠損金については過去2年に払った法人税の還付を受けることができます。

5.消費税の特例・6.地方税の軽減

5.消費税の特例および6.地方税の軽減については、特定被害災害により被災した事業者や個人が対象となりますので、ここでは割愛させていただきます。

最後に災害関連の特別損失の具体例として、西日本の大手鉄道会社であるJR西日本の決算を見てみましょう。

JR西日本の2019年3月期業績は売上高1兆5,293億円(前期比2%増)、営業利益1,969億円(同3%増)と増収増益となりました。

しかしながら親会社株主に帰属する当期純利益は1,027億円(同7%減)と減益となりました。災害関連の損失を225億円特別損失として計上したためです。

2019年3月期の1年間は、大阪府北部地震(2018年6月)、西日本豪雨(2018年7月)、
台風21号(9月)、台風24号(9月)と立て続けに災害が起きました。

JR西日本ではそのたびに早めの運休措置を取るなどの対策を講じました。そうした災害関連の復旧修繕費用がのしかかった結果がこのような決算の数字となって現れました。

まとめ

思わぬ災害に見舞われてしまったら、固定資産等の損壊だけでなく、復旧作業にも時間がかかり大変です。

そんな時こそ落ち着いて、災害に関して様々な救済措置があることを思い出していただきたいと思います。

災害時の国税庁の税務対応は、熊本地震の際には納税者向けに様々な救済策が講じられました。また義援金や寄附金の控除の取り扱いも含め迅速な対応を取られています。

災害時には出費が重なりますので、国の制度を知った上で、使える制度はしっかり使っていきましょう。

笠浪 真

1978年生まれ。京都府出身。藤沢市在住。大学卒業後、大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得して、平成23年に独立開業。
現在、総勢52人(令和3年10月1日現在)のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。
息子が交通事故に遭遇した際に、医師のおかげで一命をとりとめたことをきっかけに、今度は自分が医療業界へ恩返ししたいという思いに至る。

医院開業・医院経営・スタッフ採用・医療法人化・税務調査・事業承継などこれまでの相談件数は2,000件を超える。その豊富な事例とノウハウを問題解決パターンごとに分類し、クライアントに提供するだけでなく、オウンドメディア『開業医の教科書®︎』にて一般にも公開する。

医院の売上を増やすだけでなく、節税、労務などあらゆる経営課題を解決する。全てをワンストップで一任できる安心感から、医師からの紹介が絶えない。病院で息子の命を助けてもらったからこそ「ひとつでも多くの医院を永続的に繁栄させること」を使命とし、開業医の院長の経営参謀として活動している。

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